インターネット回線の速度低下の問題は回線トラブルの中で最もポピュラーな問題です。
ただその対策を考えるときに低下原因をちゃんと切り分けておかないと、全く効果のない無駄な労力と費用の消費になってしまいます。
お金も労力も使ったのに全く改善しない!
原因が全く別の所にあった!なんて笑えないです。
そこで今回はネットワーク技術者の観点からこの問題に真っ向から取り組みたい思います。
回線の速度低下の原因になる要素は複数ある!
まず初めにインターネットの経路の確認と切り分けポイントの4箇所を整理しておきましょう。
- 自宅モデムからNTT局舎ビルまで(アクセスライン区間)
- NTT区間内(NTT網内区間)
- 回線側とプロバイダの接点地点(NTT網終端地点)
- プロバイダ区間
アクセスラインとNTT網内を併せて回線側といったり回線区間といったりします。NTTが面倒見れるのはこの区間です。
回線はNTT網の終点(NTT網終端地点)でインターネット接続事業者であるプロバイダと接続されます(網終端装置NTEという機器が接続を担当しています)。
インターネットに接続してくれるのはプロバイダです。 ですからインターネットを利用するためにはまずプロバイダに接続する事が必要なのですが、自宅からプロバイダまでの経路を提供してくれるのがNTTなどの回線事業者(回線提供事業者)というわけですね。
次にプロバイダ区間に入りプロバイダのルーターが目的のサイトのあるサーバーにサイトデーターをくれるように要求をだしてくれます。
サイト側から帰ってきたデータを再びNTEをくぐりNTT網内へと回線側に返してゆきます。 プロバイダの仕事はこれで終わり。
なお、自宅内のモデムから後ろの部分もインターネットの速度には影響しますが、これらは個々人の宅内環境(例えばwifiの電波環境や建物の構造など)もしくは宅内装置(例えばwifiルーターLANケーブル、PCなどの性能劣化や不具合)によるものなので“インターネット回線の速度の低下”ではありません。
NTT網内区間が原因でおこる遅延はほぼ無視して良い
さて、色々切り分けポイントが有りましたが、一番無視して良いのはNTT網内での遅延です。
NTT網は別名NGN網と呼ばれます。NGNとはネクストジェネレーションネットワークの略です
この中で起こる遅延は非常に限られていて時間が経過すれば解消されます。原因はNTT網内のネットワークのどこかに故障が起こりそこのルートが通信できない場合に別のルートに迂回させる措置を取るのですが、迂回を受けたルートは普通に通信で使われているルートなので、当然交通量が一気に増大し渋滞します。 これがこの区間が原因で起こる遅延ですので、故障箇所が復旧すれば通常にもどります。
普通このようなネットワークの故障が発生した場合はNTTの工事•故障情報などのページに掲載されます。 またこのような網内故障は24時間365日体制で 我々の知らないところで 修理されます。
プロバイダ区間での遅延については基本待つしかない
プロバイダは回線側から受け取ったユーザーのインターネット接続の要求に応えるために目的のサイトの置かれているサーバーのアドレスをDNSサーバーに問合せします。
そして判明したサーバーのIPアドレス先にアクセスし、ユーザーの要求するサイトのデーターを要求します。サイトのサーバーからページのデータをダウンロードして、また回線側との接点であるNGN網終端に向けてデーターを転送して役割を終えます。
プロバイダの網内ではこのようにDNSサーバーとのやり取り、サイトが置かれているサーバーとのやり取り、そして回線側とのやり取りなど複数のやり取りが行われる訳ですがこの区間で障害が起これば当然そのプロバイダを使っているユーザーは遅延に見舞われます。
これも障害が収まるまで仕方ないことで基本的に待つしかなく、ユーザーの方で対策が出来るものではありません。
ただ、頻繁にこのような障害が起こるプロバイダについてはプロバイダ変更などの決断も必要になります。
このような障害はプロバイダのHPで障害情報として掲載されますので過去の履歴も含めチェックしプロバイダ選びの参考にします。
アクセスライン区間での遅延は回線事業者の修理を依頼する必要あり
自宅からNTTビルまでのアクセスライン区間で考えられる遅延の原因は、NTTビルから自宅内のモデムまでのあいだで光の受光レベルが落ちているとか、各コネクタ部分の接続点に汚れが生じているとか、その他いろいろあります。
NTTの点検と修理が必要ですが、修理で速度は回復します。ただ1回の修理で根本的に直らなくて再発する場合もあります。
原因箇所が一度の点検では判明しない場合があるからです。
またNTTビルに近くなればなるほど修理作業によって一時的な通信断などの影響を受けるユーザーも増えてくるので、アクセスラインの下流から順に怪しい箇所を修理してゆくという点も1回の修理で完全に回復できない場合を生む原因になっています。
アクセスライン区間での混雑による遅延は体感出来ないレベルのもの!
この区間はNTT局舎ビルからの光ファイバーを複数人で共有する区間ですので共有ユーザーが一斉にインターネットを利用すると混雑して遅くなるという事が言われることがあるのですが全く違います。
共有といっても最大で32ユーザーでの共有止まりです。1Gbpsの光回線を32ユーザーが一斉に使ったとしても1ユーザーあたりの速度は30Mbpsは確保されます。
30Mbpあればインターネットは決して体感出来る遅延は起こしません。この点については回線速度が30Mbpsならページ表示に何秒かかるか? 快適に使うため必要な通信速度の真実は?に詳しく書いておりますので一読頂ければと思います。
現在提供されている光回線サービスはNURO 光を除いてすべてGE-PONという技術が使われます。 GE-PONでは1Gbps の光ファイバーをまず4分岐します。ファミリータイプはNTT局内の4分岐スプリッターで分岐された後ビルの外に出ますが、マンションタイプ場合は分岐されずにマンションまで来てマンション内の共有スペースの置かれた4分岐スプリッターで分岐されることもあります。1/4に分岐された光ファーバーはその先で更に8分岐されます。8分岐スプリッターは自宅の最寄りの電柱の横にあるクロージャにありますが、マンションタイプの場合はこれもマンション建物内の共有スペースに置かれることが多いです。4分岐したあとの8分岐で4×8の32分岐となります。
回線とプロバイダとの接点での混雑による遅延が最も多い
我々が日々イライラさせられている速度低下の真因はここです!
いまや、プロバイダ各社のHPやネット上のいろんな記事でインターネットの速度遅延の原因はこれだ!という感じで多くのところで明らかにされてます。
昼間や朝方などは遅延はないのに夕方〜夜間にかけて遅くなるとか、週末になると一日中遅いなど時間帯や曜日によって顕著な遅延が起こる場合はほぼ、これで間違いないでしょう。
回線とプロバイダの接点ポイントでの混雑はアクセスライン区間の混雑とはケタが違います。1個の接点の太さ(帯域)は1ギガ回線サービスの場合は1Gbpsですが、ここに同じ県域から来る何千という回線が接続しています。
正確な数は非公表ですが日本プロバイダ協会の質問を受けたNTT東西が総務省に提出した回答から少なくとも2000~8000の接続があることが推察されます。
仮に真ん中あたりの4000セッション(接続)だとしても、この4000ユーザーが一斉にインターネットを利用したら1Gbpsの帯域なんて一気にパンクしてしまいます。1Gbpss÷24000ですから1ユーザーあたり1Mbpsも速度が確保されていないわけです。だいたい250kbpsくらいですね。
これを「輻輳(ふくそう)」と言いますが、これがほぼ毎日日常的に発生しているのが現在のインターネット事情なのです。
このような輻輳に遭ったらNTTなどの回線事業者側に問い合わせても、プロバイダ側に問い合わせ対応を迫っても無駄です。
理由は基本的には故障•不具合ではなく「単なる混雑」だからです。 ユーザーが出来る事としては自宅ルーターの再起動ないしは電源OFF/ONくらいです。
ルーターがOFFになれば今繋がっている接点との接続は一旦切れます。そしてルーターに電源が入り再起動して立ち上がってくる時に再びNTEに接続をかけにゆくきます。
この時大混雑しているNTEとは別のNTEに接続がかかるとそちらが混雑していない場合は、スゥっと抜けてゆくように速度が回復します。
プロバイダは同じ県域のNGN網に対する接点を複数持っているので運良くそちらに接続がかかれば上手くゆきますが、あくまで“運がよければ”程度の対策です。
他のNTEもパンパンに輻輳していたり、さっきと同じNTEに吸い寄せられるようにまた接続されたりすれば何の変化も起きません。 混雑が緩和される時間帯まで待つ他はありません。
この問題の根本的な解決には、NTEの増設しかありません。 一つのNTEに何千もの接続がかかるから混雑するわけです。
NTT東西とプロバイダ協会が総務省を巻き込んで壮絶な闘いを繰り返している問題であり、若干NTT側が増設の基準を緩和しましたが(上の表の赤字の部分)、プロバイダ協会側はこれでは不十分だと強烈に反発しています。
いずれにしても、我々ユーザー側がどうあがいてもどうしようも無い問題です。
今のところIPv6+IPoE方式によるインターネットサービスを利用するのが問題解決に一番効果的!
インターネット速度低下の原因が回線側とプロバイダ側の接点での混雑、言い換えればNTEでの混雑だとすれば、ここを通らないで済む経路があればいいわけです。
NTEを通過するのはIP v4インターネットサービスを利用している場合です。
IPv4インターネットサービスでは回線がプロバイダと接続される時にPPPoEという方法を使います。
他方、IPv6インターネットサービスではIPoE方式が使えます。IPoE方式はNTEを通りません。
しかも接点の太さ(帯域)は10Gまたは100Gです。
未だに多くのインターネットユーザーの利用しているサービスがIPv4+PPPoEですので利用者も少ないうえに、接点の帯域も10倍〜100倍もあるのですから混雑とも今のところ無縁です。
NTTやプロバイダによる根本的な混雑解消が望めないなら、我々ユーザーが現在選択できる方法はこれしかないと言えるでしょう。
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